私の創造

新たな技術を盛り込みながらバランスのとれた車両開発に力を注ぐ

総合職(車両・機械)
下山 拓紀

仕事

集合知により進められていく新幹線の開発。

「部分」に注力するとともに、「全体」の質の向上を追求したN700S車両。

新幹線新型車両の開発業務に従事し、近年ではN700S新幹線の先頭形状やパンタグラフカバーなどの空力性能を向上させることに取り組みました。例えばパンタグラフなどは、機器をそのまま車両に設置するとかなり大きな「空気を切る音」が発生します。そこでカバーを取り付けて遮音性能をアップ。騒音を防ぐことで、いわゆる環境性能を向上させているのです。現在のところ、パンタグラフなら小型軽量化を進めるといった形で開発を進めていますが、それは重量を削ることで、他の部分――電気部品や台車、内装などをより充実させることが可能になるから。場合によっては新たなサービス機器を取り付けられるようにもなり、新幹線を利用するお客さまのメリットにつなげていけるからです。
どこか一つの「部分」の機能を大幅に向上させることは可能ですが、そうなると別の部分に負荷がかかるというのが常。つまり、私が空力性能をひたすら向上させることが、全体のメリットにはつながらない場合もありえます。そのため、大切になってくるのは全体のバランス。機能的に劣化させてはいけない部分は多々ありますが、それも考慮しながらどの機能をどれだけ向上させていくか、他の部門を担当する社員と頻繁に話し合いの機会を持ち、互いに連携をとりながら開発を進めています。

 

試行錯誤を繰り返し、より良いモノを、自身の手で。

開発に関わっている以上、この上ない充実感が得られるのは、やはり手がけたモノの完成を見たときでしょう。私は2018年3月から走行試験を開始した新幹線N700Sの開発に携わったため、完成時にはやはり、大きな喜びを感じました。自身のアイデアを組み込みながら技術開発を行い、それが形になったときは技術者冥利に尽きるというほかありません。
もちろんその過程には、種々の試行錯誤がありました。考案した複数のアイデアが、低騒音風洞を用いての検証で思うような結果を出せず、全滅したこともあります。考えてみれば、新幹線そのものが50年以上の歴史を持ち、先人達が考えに考え抜いて作り上げてきた車両です。それを、10年程度のキャリアしかない自分の思いつきで一気に進化させられるはずもない。しかし、だからこそ常に新たなアイデアを考え、実験・検証し、わずかずつでも前へと進めていくのが大きなやりがいとなっています。
そして、その「アイデア」を生む素地となっているのは、広範な知識です。
自分の軸となる専門があるのはもちろん大事ですが、業務においてはその周辺にある多様な知識も求められます。私もこれまで、専門とはまったく違う電気関連の国家資格を取るなど、日々勉強を重ねてきました。これからも幅広い知識の習得に向け、努力していきたいと思っています。

 

キャリア

現場から開発へ――一貫して新幹線と関わり続けてきました。

'08-4月入社、新入社員研修
社会人として、鉄道人としての基礎を学んだ期間です。このとき苦楽をともにした仲間は、今でも大事な存在。研修後の配属先はそれぞれ異なるため、業務に関連する他分野についての疑問などあると、まず最初に頼るのが同期です。
'09-6月東京第二車両所、東京交番検査車両所
新幹線車両の検査業務を担当。日々の点検や2週間に一度行われる交番検査などは、その手順やどういった部分に特に注目するべきかなどが細かく決まっています。このような標準化を進めることで、車両の品質を常に一定に保つことができるのだと感じました。
'09-9月東京修繕車両所
新幹線車両の修繕業務を担当。主に従事したのは、不具合調査や大型設備を用いた装置の取り替え作業です。そのほか、所員の作業レベル向上のため、頻度の少ない作業の標準化を実施していきました。
'10-7月新幹線鉄道事業本部 車両部 車両課
「まずは現場を経験してから、新幹線車両の設計・開発に関わりたい」そんな希望が叶った、私のキャリアの転機ともなる異動でした。ここではN700A車両の設計を経てその構造を深く理解、そのうえで新たな改良を多数加えることができました。
'14-7月総合技術本部 技術開発部 取材当時
新幹線の開発業務を担当。4年間の設計業務を経て、N700S車両の開発に従事しました。さまざまな制約条件がある中で自らアイデアを出し、試験装置で検証を行い、もっとも効果的な「形」を作っていく。もちろん、苦労することも多いですが、その苦労を超えてアイデアが形になったときの達成感は忘れることができません。
'19-7月新幹線鉄道事業本部 車両部 車両課
5年ぶりの設計業務。N700S車両の量産に向けて、自らが開発した装置をさらにブラッシュアップするために細かな部分を1つ1つ詰めていきました。N700S車両は自らのアイデア出しからお客さまに届くまでを、一貫して従事できました。
'23-7月新幹線鉄道事業本部 浜松工場
13年ぶりに検修業務を担当。自分が経験した検修作業から大きく進化したことに驚きました。また、自分が設計したN700SやN700Aがどのように検査されていて、どこに課題があるのか、そしてより良いメンテナンスを実現するにはどうすれば良いかを考えています。

これからめざすもの

新幹線に関わり続けてきたキャリアは、今後も続いていくと思います。現在は車両にのみ携わっていますが、今後は徐々に新幹線という列車の全体像をとらえ、一つの鉄道システムとして総合的に考えられるようになっていきたいと思います。技術屋としてのベースも大事にしつつ、お客さまの快適を作っていくのが目標です。

プライベート

  • 家族旅行は頻繁に
    2~3カ月に一度は、自社線に乗っていろいろな場所へと旅行に出かけています。子供が1歳を過ぎたので、最近はよく温泉旅行に行きますね。写真も熱海を訪れたときの車内での一枚。子供はあっという間に大きくなってしまいますから、今のうちからできるだけいろいろな場所に連れて行ってあげたいと思っています。
  • 「同期」はやっぱり特別なもの
    2018年秋、ともに新人時代を過ごした同期と集まり、10年ぶりの同窓会を開催しました。顔を合わせるのは研修以来という人もいたために、最初は「どんな顔をしていったらいいのか」とも思ったのですが……。不思議なことに、一度会ってしまえば昔と同じように会話することができました。
下山 拓紀

Profile

下山 拓紀

総合職(車両・機械)
総合技術本部 技術開発部 ※取材当時
高速技術チーム 空力・集電グループ
2008年入社
工学系研究科 航空宇宙工学専攻修了