車両・機械系統 関西支社 大阪仕業検査車両所 新大阪支所 水野 慎也 2009年入社/理工学部交通科学科卒
大好きなのは自動車。
でも、趣味と仕事は別にしたいと思ったので、鉄道の技術者の道を選んだ。
現場に腰を据えて経験を重ね、いつかは現場を束ねる責任者をめざしたいと思っている。
彼は“揺れ”のプロである。
髪を短く刈り込んだ風貌は、まるで求道者。
眼光は、何かを極めようとしているかのように鋭い。
「社内でも、そんな仕事があるの? と言われる」彼は自分の仕事をそう説明した。
そして「実は自分もここに来るまで知らなかった」と笑う。
だが、すぐに気付いたそうだ。
作業は単純、しかし、中身は深い、と。
その言葉、まさにプロの一言。
水野慎也、JR東海で数少ない振動測定業務担当者である。
六法全書ほどの大きさの「振動測定機」を片手に、水野は新大阪-京都間を走る車両に乗り込む。
目的は振動波形データの取得だ。
「失礼します」お客さまにそう断り、台車(※)の真上に「振動測定機」を置く。
そのまま3分間。
データが取れると、水野は頭を下げて、静かに立ち去る。
※台車=列車の走行・制動機能を担う装置。
東海道新幹線1両に台車は2台。
水野が乗り込んで計測を行う。
黙々と、粛々と。
いったい何のために水野はこのような作業を行うのだろう。
水野の行う振動測定業務。
その目的は、振動から、台車の健全性を確認することにある。
「振動測定機」のデータをパソコンに取り込んでみる。
すると何本かの折れ線グラフが表示される。
駆動部の振動は60ヘルツ、車輪の振動は28ヘルツこの2種類の振動に加え、空調機などのさまざまな機械の振動も拾われる。
水野は、このグラフを解析し、台車の健全性を判断するのだ。
かつて問題の芽を見つけるのは、ベテラン作業員の耳と経験だった。
そこにテクノロジーの力が持ち込まれたのである。
寡黙なだけに水野の言葉は重い。
同じように、車両のかすかな振動も、意味するところは大きい。
では、それをどう活用していくか。
そこがまさに水野にとっても課題である。
そしてスタートしたのが「走行管理プロジェクト」。
振動測定のデータなどを用いて最適な走行管理の仕組みを構築していく業務である。
プロジェクトのメンバーは水野ひとり。
ひとりではあるが、浜松工場や小牧研究施設と連携を取りながら社内横断的に進められているプロジェクトでもある。
水野の発する言葉の影響力は大きい。
水野は胸を張る。
「お客さまが座席で感じる振動を、自分も一緒に感じている。
お客さまに最も近いところで仕事をしていることがうれしい」と。
高校、大学と水野は吹奏楽に打ち込んできた。
担当はトロンボーン。
トランペットほど華やかでもなく、チューバほど力強くもなく、しかし、中域を厚くして全体を引き締める、重要な存在だ。
「目立たないけど、奥が深いんですよね」それはまさに水野自身を語る言葉でもある。