運輸系統 東京第二運輸所 天沼 真実 2009年入社/法学部政治学科卒
就職活動中に参加したセミナーで、話を聞くことができたプロフェッショナル職の先輩に憧れ、この道に。
あの先輩のように、自分もつねに仕事のことをイキイキと語れるようでありたいと考えている。
「東京駅から新宿駅に向かうには何番線に乗ればいいんですか?」車内改札中、そうたずねてこられたお客さまは大きな荷物とベビーカー、そして赤ちゃんに幼児を連れていた。
口頭とメモでご案内した天沼は、お客さまの口調から遠方よりお越しで“新幹線には乗り慣れていらっしゃらないかもしれない”と推測。
次の業務まで時間があることを確認、またお客さまの事情を考えたうえで東京駅で降車後、乗り換え口まで荷物を持ってご案内した。
予想外の天沼の行動によろこび、姿が見えなくなるまで手を振ってくれた幼児の姿を、今も覚えている。
助けを求めている人に手を差し伸べることは誰でもできる。
言われなくても助けを必要としている人に気付き、支えることがプロの仕事。
「二人の小さなお子さまを連れたお客さまは、この後、慣れない駅で乗り換え改札口を探すことだろう。その時に自分が出来ることは何か。それを考えたとき、直接お連れした方がいいと判断した」この判断力こそ、プロなのだ。
天沼の判断力を支えているのは、“気付き”である。
例えばホーム。
車両に沿って歩きながら天沼は “今日の自由席は混みそうだ”“休日なので家族連れが多いな”と観察し、考えている。
だから「どうするべきか」がすぐ頭に浮かぶのだ。
車内でもアイコンタクトを欠かさず、きっぷを持ちながら、不安そうなお顔のお客さまを見かけるとすかさず「どちらまでお越しですか」と声をかける。
とにかくよく見て気付くこと。
そして臨機応変に判断すること。
それがプロの車掌にとって大切であると、天沼は教えてくれる。
「あそこのグループがうるさいんだけど、注意してくれる?」改札中、お客さまにそう頼まれた。
確かに大声ではしゃいでいるグループがいる。
だが、そのグループもまた車内でご旅行を楽しんでいるのだ。
天沼は一度様子をみた後、次に通りかかった時に「何かゴミはありませんか、お預かりいたしますが」と声をかけた。
「おお、兄ちゃん、悪いなあ」と上機嫌で差し出されるゴミ。
すかさず天沼は「あと、お休みになられているお客さまもいますからもう少しお静かにしていただければ」と付け加える。
これでお客さま全員に快適にお過ごしいただける。
誰に教わったのでもない。
天沼が考え出した接客ノウハウだ。
これも車内の状況を観察し、つねに対応を準備しているからこそ。
“気付き”から考える接客に磨きをかけて、天沼は今では一目置かれる車掌になった。
今も天沼ははじめてひとりで乗務したときのことを思い出す。
昼過ぎの東京駅。
後部車掌として乗り込み、小窓から顔を出してホームを見た瞬間、“お客さまの安全を守るのは、他の誰でもなく自分自身なんだ”と痛感したという。
新大阪駅までは長かった? それとも短かった? と問うと「長かっ…いや、短かった…よく覚えてないなあ」と笑った。
今でこそ気持ちに余裕は生まれたが、緊張感は初乗務の時と変わらないという。
最近、天沼は指導車掌として見習い車掌を養成し、送り出した。
かつての自分を重ね合わせて指導しながら“そうか、あの時先生が注意した理由はこれだったのか”と思い出す。
人を育てることで自分も育つ。
そんな新しいやりがいも知ることができた。
考えてみれば、車掌というのは目立つような、目立たぬような、不思議な存在だ。
お客さまを安全に、かつ快適に目的地までお運びするため、見えないところで目を光らせ、気を配り、判断を下している。
「東海道新幹線1編成16両にお客さまは約1320人で、車掌は3人。
これだけのお客さまと触れあえるというのは、やはり特別な仕事なんだと思う」共に成長してきた同期とそう語り合うことも多いという。
一行路ごと生まれる、たくさんの一期一会。
そのすべてが天沼にとってよろこびである。
はじめはドア扱いで精一杯だった。
次第にお客さまにどう寄り添うかを考えられるようになった。
次は何をすべきか。
何ができるようになるべきか。
天沼の目は、明日の自分を見つめている。